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看護過誤real estate

第1 観察・連絡等に関連する事故

1 観察義務が問題になった事例

看護師のみの過失肯定例

○人工妊娠中絶術後,約12時間後に患者の容態が急変し,その5時間後に死亡した事案
「中期妊娠中絶の危険性がかなり高いこと,一般的に手術後の患者の容態の急変はよくみられるところであり,しかもHには付添人はその間誰もいなく,このことはY側も十分知っていたと認められること等に思いめぐらすと,4時間余の間にわたり,患者をベッド枕許にあるインターホン利用にまかせっきりにし,医師,看護婦らによる看視,観察をしなかったことは,患者側にまかせっきりの無責任体制であり,医院側と患者側という専門家と素人の差を考慮しない杜撰なあり方と非難されてもやむをえない。」(福岡地判昭和52年3月29日,判時867・90)

○介護老人施設において喘鳴と肺雑音が5時間以上継続し脈拍96など病態が悪化したのに,准看護師が医師による診察を受けさせるための措置を講じなかった事案
(大阪地判平成21年1月14日,ケースファイルVol4・445)

○虫垂摘出手術に当たり施用された麻酔のショックにより患者が死亡した事案
「看護婦には患者側から呼吸抑制の症状をうかがわせる訴えがあったにもかかわらず,その意味するところについて慎重な配慮をすることなく,かつそれに対して適切な処置をとらなかった点において過失があったというべきである」(東京地判昭和53年10月27日,判タ378・145)

○早産未熟児が産院において無呼吸発作により死亡した事案(松山地判平成7年1月18日,判タ881・238)

○精神病院において,催眠鎮静薬であるイソミタールの投与を受けた入院患者が,同薬剤の呼吸抑止作用とともに,睡眠が深くなったことに伴って舌根沈下を生じて窒息死した事案(東京高判平成13年9月12日,判時1771・91)

医師と看護師の過失肯定例

○直腸がんの治療のため腹会陰式直腸切断術を受けた患者が術後,低酸素脳症を発症し死亡した事案
「被告において,本件患者の術後管理につき,本件患者が十分に覚醒した状態にあったとはいえない段階で,術後管理に習熟していたとは認められない丙川看護師のみに,呼吸数や呼吸状態の確認につき特に具体的な指示をすることなく監視をゆだね,同看護師においても,本件患者の状態について適切な監視を怠ったことにより,本件患者の呼吸抑制ないし低換気の進行を見落とした過失があると認められる。」(大阪地判平成19年3月9日,判時1991・104頁)

看護師の不法行為責任を否定し,医療機関の安全配慮違反を肯定した例

○看護師が与えたコップ状の玩具によって1歳の喘息患者が窒息した事案(東京高判平成14年1月31日,判時1790・119)

医師の指示義務違反のみ肯定例

○薬物等にアレルギー反応を起こしやすい体質である旨の申告をしている患者にアナフィラキシー発症の原因物質となり得る薬剤の点滴静注を行った看護師が,点滴静注開始後,患者の経過観察を行わないで,すぐに病室から退出した事案
医師があらかじめ,担当の看護師に対し,投与後の経過観察を十分に行うこと等の指示をするほか,発症後における迅速かつ的確な救急処置を執り得るような医療態勢に関する指示,連絡をしておくべき注意義務があることを認めた(最高裁判平成16年9月7日,判時1880・64)。

看護師の過失否定例

○ナースステーションは廊下側にガラス窓と扉があり,被告病院看護師が絶えず廊下側を監視していれば,患者が歩いてくるのに気付くことができた事案
「回復室からエレベーターまでは約3m,階段までは約6mしかなく,患者がナースステーションの前の廊下を通り過ぎるのもわずか数秒であって,これを絶えず監視せず見逃したとしても,これをもって過失とは評価できない」(津地判平成16年6月24日)

○小児が吐血したのを鼻出血の嚥下と推測し,小児突発性血小板減少性紫斑病(ITP)を疑わなかった事案(佐賀地判昭和60年7月31日,判時1169・124)

2 モニター監視について

看護師の過失肯定例

○患者の急変に備え,そのベッドサイドモニタのアラームを医師の指示どおりに設定するとともに,その設定が維持されているかについて継続的に確認すべき注意義務があった(東京地判令和2年6月4日)

○肺炎治療のために入院していた患者の気道を確保をする装置がずれてアラームが鳴ったにもかかわらず,看護師3人が他の業務に従事してたためすぐに対応せず,患者が呼吸停止して意識がなくなり翌年死亡した事案
「ナースステーションに在室する看護師としては,アラームが鳴った場合には,直ちにモニターを確認して単なる一時的な異常と判断されるのであれば格別,そうでない場合には当該患者の病室を訪問して異常の原因を除去したり医師に異常を伝える等の措置をとるべき注意義務がある」
「アラームに対して対応しないことやこれを遅滞することは人命にかかわる場合もあるのであって,アラームの対応が優先すべき業務であったといえる。」「看護師がアラームが鳴っていること自体に気が付かなかったとすれば,(中略)アラームに気が付かなかったこと自体が過失というべきである。」
(神戸地判平成23年9月27日,医療判例解説2012・12・94)

○医師が看護師に躁状態の患者について「心拍数に注意するように」と指示し,心拍数が40〜140以外になると作動するアラームが鳴ったにもかかわらず看護師は,興奮のため140以上になったと思い込んで確認せず,患者が心停止で死亡した事案(札幌地判平成20年2月27日)

○病院に入院中の患者が,無呼吸の状態になるおそれがあるため,アラーム装置が設置されていたが,夜間にナース・ステーションにアラームが鳴った際,看護師等が不在のため30分放置され,患者が呼吸不全により死亡した事案
患者の呼吸管理上に過失があったとして,病院設置者の使用者責任を肯定(東京地判平成17年11月22日,判時1935・76)。

○当時9ヶ月の男児に心拍呼吸モニターとサチュレーション・モニターがつけられ,ナースステーションに警報音で知らせるようになっていたが,心拍呼吸モニターの警報音はうるさいという理由で切られていて,サチュレーション・モニターが鳴っていたかが争われた事案
サチュレーション・モニターが鳴らないことも想定した監視措置を取っていなかったことを理由に約2億510万円の支払いを命じた(鳥取地米子支判平成21年7月17日)。
サチュレーション・モニターは鳴っていたと認定し,異変から発見まで13分を要したことは重大な落ち度との理由から,約2億530万円の支払いを命じた(広島高裁松江支判平成24年5月16日)。なお,病院は上告。

看護師の過失否定例

○ 看護師がアラームが鳴動してから気づくまで2〜3分あり、別室に立ち寄ってから患者の病室に入室した事案で、注意義務違反を否定(大阪地判平成28年10月7日)
* 看護師の注意義務違反の程度が大きくないこと、患者の家族が看護師に暴力を振るうなど原告の請求を認容し難い事情があること等の特殊なから、一般化できない判決である。

○ナースステーション内にあるモニターが鳴ったがその当時ナースステーションには看護師がおらず,30分後に戻った看護師が気付いた事案
「看護師2名がいずれもナースステーションを30分ないし1時間程度離れる状態が生じることは,2名の看護師で35名の入院患者の看護業務に当たる以上,やむを得ないというべきであり,それをもって控訴人病院の医療態勢の不備ないし落ち度ひいては注意義務違反ということはできないというものというべきである。」
また,ナースステーション外にも聞こえるように音量を上げる注意義務違反も否定した(東京高判平成21年4月28日,判時2086・25,傍論)。

○ 気管切開チューブが2度脱落して死亡した事例につき、看護師は、患者の娘が異常に気付いてナースコールを行うより早くモニターのアラームにより酸素飽和度の低下に気付き、直ちに患者の病室へ行き、その2分後には医師による気管内挿管によって気道が確保され、酸素投与等の措置がとられた事案
第2次脱落への対応は極めて迅速にされていたと評価できるから、病院の態勢に関し、医師ないし看護師に過失があったとすることはできない(大阪地判平成18 年12月8日)
* 控訴審で和解により終了している。前田順司元判事は、「気管切開チューブが2度も脱落して患者が死亡している事情が和解による解決になったものと推測される。」としている(甲南法務研究11巻23頁)。


3 ナースコール対応の遅れ

看護師の過失肯定例

○激しい陣痛を感じた妊婦がナースコールを押したが応答がなく,やむなくベッドを降りたところで墜落分娩し,その後児が死亡した事案(東京地判昭和63年9月16日,判タ686・226)

看護師の過失を否定し,病院設置者の責任を肯定した例

○起き上がった際に墜落分娩し,ナースコールを探したが落ちたまま放置されていたナースコールを発見できず,大声を出しているところを約30分後に通りかかった看護学生に発見された事案(横浜地判昭和58年5月20日,判タ506・167)

4 患者の観察と他殺,自殺事故

自殺の場合の看護師の過失肯定例

○看護師の引率の下,院外リクリエーションの帰路,プラットホームから電車軌道に飛び込み自殺をした事案(大阪高判昭和57年10月27日判タ486・161)

○自殺念慮を有するうつ状態の患者が抑制帯をほどいて首つり自殺をした事案(東京地判平成7年2月17日,判時1535・95)

○患者が夜間病室の窓の格子にシャツを通して首をつり自殺した事案(福岡地小倉支判平成11年11月2日,判タ1069・232)

他殺の場合の看護師の過失肯定例

○措置入院中の精神障害者が無断離院して金員強取の目的で通行人を殺害した事案(最判平成8年9月3日,判時1594・32)

○精神病院入院患者が無断外出先から持ち込んだナイフにより他の入院患者を殺害した事案(福岡高判平成3年3月5日,判時1387・72)

他殺の場合の看護師の過失否定例

○精神病院入院中の患者が同室の患者を窒息死させた事案(東京地判平成6年10月18日,判タ894・232)

5 医師への連絡の遅れ

看護師の過失肯定例

○腸閉塞の手術後の患者が腹膜炎のために容態が急変し死亡するに至った事案(大阪地判平成11年2月25日,判タ1038・242)

看護師の過失否定例

○自制不能の頭痛を訴え,経過観察のため入院した患者が,午後10時に覚醒中で体動著明の状態であったが,担当看護師は医師に報告せず,その1時間40分後に「うーん。うーん。」とうなりながら強い痛みを訴えた時点で報告した事案(大阪地判平成18年1月25日,東京・大阪医療訴訟研究会『医療訴訟ケースファイルvol.2』140頁)

看護師の過失不問例

担当医師について、急性膵炎との確定診断時以降、経時的にバイタルチェック等を行い、その結果を踏まえて、輸液過剰にならないように注意しつつ適量の輸液投与を実施すべき注意義務の違反を認め、看護師が当直医ではなく自宅に戻っていた担当医師に連絡したことが過失にあたるかは判断されなかった(宮崎地判成31年3月27日)

6 患者取り違え事故

医師と看護師の過失肯定例

○本来心臓手術を予定していた患者に肺手術が,肺手術を予定していた患者に心臓手術が実施された事案
(横浜地判平成13年9月20日,判タ1087・296 東京高判平成15年3月25日,東高刑報54・1〜12・15 最決平成19年3月26日,刑集612・131)

看護師の過失不問例

○S産院での昭和33年の新生児取り違え事件(東京地判平成17年5月27日,判時1917・70 東京高判平成18年10月12日,判時1978・17)

○妊娠13週の患者を妊娠7週の人工中絶希望の同姓の患者と取り違えて妊娠中絶を行った事案(いわき簡略式命令平成2年1月10日)

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