本文へスキップ

最高裁医療判例real estate

最高裁医療判例
〇最判平18・4 ・18集民220号111頁

腸管壊死事件

平成3年当時の腸管え死に関する医学的知見においては,腸管え死の場合には,直ちに開腹手術を実施し,え死部分を切除しなければ,救命の余地はなく,さらに,え死部分を切除した時点で,他の臓器の機能がある程度維持されていれば,救命の可能性があるが,他の臓器の機能全体が既に低下していれば,救命は困難であるとされていたというのであるから,開腹手術の実施によってかえって生命の危険が高まるために同手術の実施を避けることが相当といえるような特段の事情が認められる場合でない限り,Aの術後を管理する医師としては,腸管え死が発生している可能性が高いと診断した段階で,確定診断に至らなくても,直ちに開腹手術を実施すべきであり,さらに,開腹手術によって腸管え死が確認された場合には,直ちにえ死部分を切除すべきであったというべきであり,G鑑定人も同旨の指摘をしていることが記録上明らかである。

そして,前記事実関係によれば,Aの術後のバイタルサインは落ち着いており,出血量も少なく,良好に経過していたというのであり,24日午前8時ころの時点では,Aの症状は次第に悪化していたとはいっても,Aの症状が更に悪化した同日午後7時20分には開腹手術が実施されているのであるから,開腹手術の実施によってかえって生命の危険が高まるために同手術の実施を避けることが相当といえるような特段の事情があったとは考えられず,Aの肝機能やじん機能が低下していたことなど原審が掲げる事実は,上記特段の事情には当たらないというべきである。
したがって,D医師は,上記開腹手術実施義務を免れることはできない。

ナビゲーション